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九州の観光情報

旅も芸術も自分だけの
「好き」を見つけて

 国内旅行に少しずつ回復の兆しが見え始めています。外出自粛を求められ、生活が大きく変化した中で、多くの人が「旅行ができる日」を心待ちにしていました。福岡県太宰府市の九州国立博物館・島谷弘幸館長に、日常から離れ、刺激や感動を通して人生に豊かさをもたらす旅と芸術の楽しみ方を聞きました。

九州国立博物館 島谷 弘幸しまたに ひろゆき 館長

1953年生まれ。東京国立博物館学芸部美術課書跡室研究員、同学芸部美術課書跡室長、同学芸部資料課長、同文化財部展示課長、同文化財部長、同学芸研究部長、同副館長(兼)独立行政法人国立文化財機構本部研究調整役を経て、2015年4月より現職

―九州国立博物館は東京、奈良、京都に次ぐ4番目の国立博物館として2005年に開館しました。太宰府天満宮のすぐ隣にあり、「九博きゅうはく」の愛称で親しまれています。
 太宰府天満宮から寄付された鎮守の森の中に建つ博物館です。2015年に館長として就任後、北側の山林斜面に250本のシダレザクラを植えました。南駐車場側には、19年に開催した特別展を記念して、豊臣秀吉が開いた「醍醐の花見」で知られる醍醐寺から譲り受けた「太閤しだれ桜」の子孫を植樹。ロータリーにも大きなシダレザクラがあり、春には敷地全体が桜の名所となります。四季折々の景色を楽しんでもらえるように、今後も鮮やかに色付く花や木を増やしていきます。
 九博の花を見て心が和んだり、周囲を散歩して心身が元気になったり、良い気持ちを持ち帰ってもらえたらうれしいです。かしこまらず、安らぎを求めて気軽に訪れてください。「行く所がないから、博物館に行こうか」と選んでもらえることは私にとって最高の褒め言葉です。
―「九博」の見どころは。
 4階の「文化交流展示」に力を入れています。季節に合わせて展示替えをしていて、訪れる度に発見がある常設展示室です。1回でおしまいではなく、足を運ぶごとに興味が増す工夫を凝らしていますので、毎月でも来ていただきたいと思っています。1階には多様な文化や歴史を体験できる無料の空間「あじっぱ」があるので、散策のついでに立ち寄ってみてください。
―芸術に触れる旅の魅力を教えてください。
 作品は「どこで見たか」が心に残ります。旅先での出合いはより印象的です。ミュージアムで気になる作品を見つけたら、「なぜこういうふうにしたの?」「私だったら、ここをこうするな」など作品と会話をしてみてください。その中の3作品を覚えておき、旅行から帰ったら、周りの人に感動を伝えてみましょう。すると深く体に記憶されていきます。
 どう鑑賞すればいいか分からない人は、「家にこれがあったらいいな」という視点で眺めてみてください。「もらって帰りたい」「一番高そう」と思う作品を探すとおもしろいです。国宝や重要文化財のマークにとらわれず、自分がいいと気に入る作品が見つかると美術がもっと楽しくなります。
―島谷館長の心に残る芸術の旅をお聞かせください。
 大勢の観光客でごった返すパリのルーブル美術館で、「ミロのビーナス」の周囲に私一人だけという奇跡のようなタイミングがありました。かの有名な美術品を独り占めできた喜びは忘れられません。ミラノの大聖堂(ドゥオモ)は日常的にクレーンを使って点検や工事をしているのですが、私が行った時はたまたま何もなく、美しい姿を写真におさめられました。ロシア・サンクトペテルブルクの教会でときめいたのは、日本とは違う形をしたマンホール。私はみんなが注目しないものに感動を覚えるところがあり、それを発見するのも旅の目的です。旅も芸術も、自分だけのお気に入りに巡り合うために、いつでもアンテナを張っておくようにしています。
ミロのビーナスと貴重なツーショット
サンクトペテルブルクで出合ったマンホール